涼しくなった夜、店先で「ひやおろし」の文字を見かけると、つい一本手に取りたくなる。その感覚は当たっていて、秋の酒が美味しいのには造りの理由があります。
さんま、きのこ、里芋、秋鮭、栗や銀杏。旬の肴に合わせる6本を、温度を変えながら紹介します。
秋の日本酒、「なんとなく美味しそう」の正体
「ひやおろし」や「秋あがり」は、冬から春にかけて搾られた日本酒が、ひと夏の間、蔵の中でゆっくりと過ごした末の姿です。搾ったあとに一度だけ火入れ(加熱処理)をして、瓶詰めのときには二度目の火入れをしない。この造り方は「生詰め(なまづめ)」と呼ばれ、ひやおろしはその代表格にあたります。
一度しか熱を通していない分、生詰め酒は普通の日本酒よりも少しだけ、生酒に近い繊細さを持っています。ひと夏の熟成で角が取れ、旨味がまとまっていく過程そのものが、まだ瓶の中で続いているとも言えます。「なんとなく美味しそう」の正体は、まずここにあります。フレッシュさと熟成の、両方のいいとこ取りをしている酒だから、惹かれるのです。ただ、この正体には、もう一段先があります。
この繊細さは、裏を返せば扱いに気を遣う酒だということでもあります。だからこそ零下 -REIKA- は、蔵元を出たあとの温度をマイナス5℃で管理しています。ひやおろしや秋あがりが本来持っている旨味を、瓶を開けるその瞬間まで崩さないためです。
この繊細さがどこから来るのか、火入れの仕組みまで遡って知りたい方には、こちらが参考になります。
ひやおろしと秋あがりの違いや選び方は、動画でも解説しています。
焼きさんまに合う日本酒は、キレのある食中酒を
さんま(秋刀魚)は、脂がのった身と、ほろ苦い内臓の対比を楽しむ魚です。塩焼きに大根おろしを添えたなら、合わせたいのは、脂を洗い流してくれるようなキレのある酒です。
伯楽星 純米吟醸 冷卸 720ml|2,215円(税込)
- 米/精米歩合:蔵の華(宮城県産)/55%
- 味わい:フレッシュ・ソフト・シャープ
- 飲みごろ:10℃前後
伯楽星は「究極の食中酒」を掲げる新澤醸造店の看板銘柄で、この時季だけ「冷卸(ひやおろし)」として登場します。ひと夏を越えたことで、まず感じるのは適度な熟成による丸みのある口当たり。そこから伯楽星らしいすっきりとしたボディの奥で、弾力のある上品な旨味が膨らみ、最後は張りのある後味のキレで、すっと締まります。
「少し丸くなっている。でも、最後のキレはやっぱり伯楽星。」この変化こそ、焼き秋刀魚と合わせたい理由です。脂の重さを、張りのある後味のキレで断ち切ってくれるはずです。10℃前後に冷やして楽しんでみてください。
同じく脂がのった戻り鰹のたたきにも、キレのある食中酒という考え方はそのまま活きるはず。薬味を効かせて、この一本を合わせてみるのもいいと思います。
きのこに合う日本酒は、寄り添う旨味のあるものを
秋のきのこ、舞茸や本しめじを蒸し物にすると、出汁のような滋味が広がります。合わせたいのは、香りが主張しすぎない、寄り添うタイプの酒です。
津島屋 純米吟醸 山恵錦 一火 720ml|2,195円(税込)
- 米/精米歩合:山恵錦(長野県産)/60%
- 味わい:フルーティ・ソフト
- 飲みごろ:5℃前後
長野生まれの新しい酒米「山恵錦(さんけいにしき)」。岐阜・津島屋が、この山恵錦で醸した秋限定・純米吟醸です。穏やかな果実香、やわらかな旨味、最後を締める酸。きのこの滋味を邪魔せず、そっと引き立ててくれます。他には、茶碗蒸しや山菜料理のような、出汁の効いたお料理にもおすすめしております。
5℃前後によく冷やして。晩ごはんの器の隣に、静かに置いておきたくなる酒です。
里芋・小芋の揚げものに合う日本酒は、油の余韻を流すキレを
里芋や小芋を揚げものにすると、ほくほくとした甘みに、衣のこうばしさが重なります。合わせたいのは、油の重さに負けない、張りのある酒です。
寒紅梅 純米吟醸 AKI ふくろう 720ml|2,195円(税込)
- 米/精米歩合:朝日(三重県産)/60%
- 味わい:フレッシュ・フルーティ・シャープ
- 飲みごろ:5〜10℃前後
寒紅梅の季節限定シリーズは、ラベルに描かれる動物が季節ごとに変わることで知られていて、秋は「ふくろう」が登場します。ひと夏を越しても瑞々しさは健在で、口当たりはまず張りのあるボディがしっかり感じられ、そこにブドウのような旨味と弾ける酸が軽やかに重なって舌を滑ります。すっと後味が消えていくので、揚げたての余韻をすっきりと流してくれます。他には、海老の天ぷらや冬瓜のそぼろ餡かけのような、油と出汁のお料理にもおすすめしております。
5〜10℃前後に冷やして、揚げたての熱いうちに合わせてみてください。
秋鮭の幽庵焼きに合う日本酒は、冷やでも燗でもいける一本を
秋鮭をゆずの効いた幽庵焼きにすると、脂の甘さにゆずの爽やかさが重なって、香りごと楽しむ料理になります。ここに合わせたいのは、冷やでも燗でも表情を変えられる、懐の深い酒です。
北光正宗(ほっこうまさむね) 秋の山廃純米 80 720ml|2,402円(税込)
- 米/精米歩合:金紋錦(長野県木島平村産)/80%
- 味わい:ドライ・シャープ・リッチ
- 飲みごろ:冷酒10℃程度/燗酒50℃程度
北光正宗の「秋の山廃純米80」は、長野県木島平産の希少米「金紋錦」を、あえて80%までしか磨かずに、山廃(やまはい、天然の乳酸菌の力を借りて仕込む伝統製法)で醸した一本です。低精白ならではの米の旨味が濃く出ていて、香りは落ち着いたバナナを思わせます。
口に含むと、軽やかさのあとにコクのある旨味が一気に押し寄せ、最後は存在感のある酸が味を切ってくれます。ゆずの香りにも負けない骨太さです。他には、豚肉の山賊焼きやクリームチーズの酒盗和えのような、コクのあるお料理にもおすすめしております。
冷酒なら10℃程度でジューシーに、燗なら50℃程度で山廃らしい複雑味がさらに開きます。同じ一本で、幽庵焼きの香りを冷やでも燗でも受け止めてくれるはずです。
栗・銀杏、根菜の煮ものに合う日本酒は、燗をつけて
栗や銀杏(ぎんなん)、根菜を甘辛く煮ものにすると、たれや味噌の濃い味わいが主役になります。味噌や照りの甘辛さには、ひと夏の熟成で旨味がのったひやおろしを、燗にして合わせたくなります。温度を上げることで、酒の中に眠っていた複雑な香りが立ち上がってくるからです。
よこやま 純米吟醸 SILVER ひやおろし 720ml|2,079円(税込)
- 米/精米歩合:山田錦(兵庫県産)/麹米50%・掛米55%
- 味わい:ソフト・リッチ
- 飲みごろ:冷酒5〜10℃/燗酒55℃前後
長崎・壱岐島の「よこやま」から届く秋限定のひやおろしは、ひと夏の熟成で旨味がふくらんだ一本です。穏やかな吟醸香のあと、ボリュームのある旨味と甘味が広がり、そこへ程よい酸が重なります。ひと夏の熟成でのった旨味に厚みがあるので、甘辛い煮ものの味付けにも引けを取りません。
冷やしても燗でも楽しめますが、この季節の煮ものに合わせるなら55℃前後の熱めの燗を。栗の甘露煮のような濃厚な甘みとも、正面から向き合ってくれるはずです。
安芸虎 雄町 純米吟醸 ひやおろし 720ml|2,402円(税込)
- 米/精米歩合:雄町(岡山県産)/60%
- 味わい:ソフト
- 飲みごろ:冷酒10〜15℃/燗酒40℃前後
もう少し穏やかな一本がよければ、高知・安芸虎の雄町を。ほんのりバナナを思わせる香りに、すっきりとした口当たり。そこから岡山県産「雄町」の旨味が、主張せずにじんわりと広がります。他には、豚肉の味噌炒めや鶏肉のてりやきにもおすすめしております。味噌や照りの甘辛さと同じ理屈で、根菜の煮ものにも寄り添う一本です。
こちらは40℃前後のぬる燗が心地よい温度です。よこやまは熱めの燗、安芸虎はぬる燗。同じ「燗」でも温度が変わると、煮ものの見え方も変わります。
ここまでの6本以外にも、この秋の一本を探している方へ。銘柄から選びたいときは、ひやおろしのおすすめをまとめた記事もあります。
ひやおろしや秋あがりは、出荷の時期が限られた季節限定の酒です。この秋の顔ぶれは、こちらからご覧いただけます。
まとめ:秋の味覚と日本酒は、温度で合わせる
さんまには10℃前後に冷やして、きのこは5℃前後で静かに寄り添わせて、里芋の揚げものには5〜10℃前後、秋鮭の幽庵焼きは冷やでも燗でも、そして栗や銀杏、根菜の煮ものにはぬる燗から熱めの燗まで。同じ「秋の酒」というくくりの中にも、これだけ違う顔があります。
ひと夏の熟成で角が取れた生詰めの酒だから、温度を変えるだけで表情が変わる。冒頭で触れた「なんとなく美味しそう」の正体は、この振れ幅まで含めたものだったのだと思います。その振れ幅を、瓶を開ける瞬間まで守っているのが、零下 -REIKA- のマイナス5℃管理です。
冷やで一杯、燗で一杯。同じ一本でも、器に注ぐ温度で秋の顔つきは変わります。今週末は、旬の肴を一つ選ぶところから始めてみてください。
ペアリングについては、YouTubeチャンネル「日本酒王子 近藤悠一」でも取り上げています。
読んで気になった秋の一本を、実際に食卓で試してみたくなった方へ。
