宮城県で「伯楽星」を醸す新澤醸造店を、零下の会員様とともに訪れた日のこと。 日本酒づくりの現場をひと通り見学したあとに向かった先は、日本酒の蔵ではありませんでした。 同じ宮城の地で、クラフトジンを蒸留する小さな蒸留所でした。 日本酒とジン。一見するとまったく異なる世界のように思えますが、 実際に足を運んでみると、その距離は思っていたよりずっと近いものでした。
MCG(Miyagi Craft Gin)とは

MCG(Miyagi Craft Gin)とは、現・新澤醸造店専務取締役の杉原健太郎氏が代表を務める酒類メーカー。2018年6月に東北初のクラフトジン蒸留所を設立。原料の選定から数百に及ぶ蒸留・ブレンド・試飲を重ねて、2020年に待望の第1弾商品をリリース。その後たったの1年半で、香港インターナショナルワイン&スピリッツコンペティション2021 コンテンポラリージン部門にて、最高賞となる「トロフィー」を獲得。日本酒づくりで培われた繊細な感覚と設計思想をもとに、宮城のテロワールを活かしたクラフトジンを世界に発信しています。
日本酒酒蔵の見学、その先にあった寄り道

蒸留所に入ってまず驚いたのは、香りの捉え方が“発酵”とはまったく違うことでした。
日本酒が米・水・麹の組み合わせから立ち上がる香味を、 発酵と熟成の流れで整えていくのに対し、 ジンはジュニパーベリーを軸に、ボタニカルを積み上げて香りを設計していきます。
とはいえ、目指しているのは派手さではなく、土地の素材をどう表現するか。 そこに、日本酒づくりと同じ問いの延長線を感じました。
香りを“分解して”考えるということ

まず手に取らせてもらったのは、ジンの要となるジュニパーベリー。
日本語では“ネズの実”。
小さな黒い粒を手のひらにのせて香りを嗅ぐと、 ベリーというより、スパイスや樹脂を思わせるシャープな印象でした。 参加された方からも「想像していた香りと全然違いますね」と驚きの声が上がります。

MCGのクラフトジン「欅」は、このジュニパーベリーとコリアンダーシードに、 宮城の素材を掛け合わせてつくられています。
・柚子果皮(宮城県の大島や大河原、柴田産)
・茶葉(宮城県石巻産)
・セリ(宮城県名取産)
・ブドウ果皮(宮城県秋保産)

そして何より特徴的なのが、 それぞれを別々に蒸留してスピリッツにしてから、 最後に一本のジンとしてブレンドするという、とても手間のかかる手法。
香りを“パーツ”として捉え、役割ごとに設計していく発想が、 蒸留所の随所にありました。
ドイツ製の蒸留器が生み出す、繊細な抽出

蒸留所の中心にあるのは、大きな銅色の機械。 ドイツ製の蒸留器です。
つやのある銅の胴体に、丸い小窓がいくつも並ぶ姿は、 まるで理科室の実験装置のよう。 けれど、ここで行われているのは、 とても繊細な「香りの抽出」です。
まず、ベースとなる無味無臭のアルコールに一種類の素材を入れます。
それをゆっくり温めると、 アルコールは水よりも低い温度で蒸気になります。
立ち上った蒸気には、 素材の香りの成分が一緒にくっついていきます。
そして、その蒸気を冷やすことで、 もう一度液体に戻す。
そうして生まれるのが、 「香りをまとったアルコール」です。
素材によって、火加減を変える

面白いのは、素材ごとに温め方を変えていること。
杉原氏:世の中には、醸造アルコールの中に素材を全部ドボンと入れて、「これがジンです。」と言っちゃう商品もあるんです。
しかし、あえて一つ一つ分けて抽出をすることにこだわる。
かたいスパイス類は、しっかりと熱をかける。
でも、柚子や茶葉のように繊細な素材は、 強く熱すると苦味が出てしまうため、 やさしく、ぎりぎりの温度で引き出します。

だからこそ、 柚子の爽やかさはそのままに、 セリの青いニュアンスはほのかに、 お茶の落ち着きは静かに残る。
それぞれを別々に抽出し、 最後にブレンドして一本に仕上げる。
そうして完成するのが、 クラフトジン「欅」です。
素材が一本につながる瞬間

テイスティングの時間には、柚子のスピリッツ、茶葉のスピリッツ、セリ、ぶどう…と、 一つひとつ香りを嗅ぎ、少しずつ試飲をさせていただきました。
「これはトップノート担当」「これは後味で効いてくる」と説明を聞きながら順番に飲んでいくと、 香りの役割が自然と理解できてきます。

そして最後に、完成形であるクラフトジン「欅」を一口。 先ほどまで“分解”して感じていた香りが、 一本の線としてきれいにつながる感覚がありました。
柑橘の爽やかさと、和のボタニカルの落ち着きが共存した、 とてもバランスのよい味わいです。
ジントニックやジンソーダで飲むことを前提に設計された「欅」は、 最初の一杯としても、日本酒の合間の一杯としても、 さらには和食と合わせるお酒としても相性がよさそうだと感じました。
実際のボトルや詳細はこちらからご覧いただけます。
なぜ、日本酒の蔵がジンづくりに挑むのか

現場を訪れてみると、 「日本酒とジンは別物」というより、 “宮城の香りや素材をどう表現するか”という同じ問いの延長線上 にあるのだと感じます。
素材をどう選ぶか。 香りをどう立ち上げ、どう消していくか。 飲まれるシーンをどう想定するか。 日本酒づくりで培われた繊細な感覚と設計思想が、 ジンの世界にも自然に活かされていました。
クラフトジン「欅」はどんな人におすすめ?

- 食中酒として、軽やかな一杯を挟みたい日本酒好き
- 素材の香りを丁寧に追いたい方
- 宮城のテロワールを別の角度から味わいたい方
日本酒の蔵を訪ね、その流れで出会ったクラフトジンの蒸留所。 そこで感じたのは、ジャンルを超えて一貫している“味わいの芯”でした。
新澤醸造店の日本酒が好きな方であれば、 このクラフトジン「欅」も、きっと自然に受け入れられるはずです。
もっと深く知りたい方へ
この蒸留所を訪れる前に見学した、 新澤醸造店・川崎蔵の裏側では、 0.85%精米、マイナス5℃、伯楽星の造りなど 「世界一の食中酒」に迫る体験がありました。
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