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志々伎山を背に福海を持つ福田竜也社長

地域を表現する酒造り。平戸・福田酒造「福海」が生まれるまで【蔵を訪ねて#1】

連載のはじめに

零下をご利用の皆様、初めまして。ライター/アナウンサーの西永里花と申します。

もともと放送局に勤めていましたが、大好きなお酒の魅力をより多くの人に楽しんでほしいという思いから、国内外に日本酒を販売しているさくら酒店様にお声がけしました。ご縁あって、「読みもの」ページの記事を書かせていただくことになりました。私が住む九州の酒蔵を中心に、造り手の思いとお酒へのこだわりが詰まった記事をお届けしていきます。よろしくお願いいたします。

今回お邪魔したのは、1688年創業、300年以上の歴史を持つ福田酒造です。福田酒造があるのは、九州の西に位置する長崎県の中でも、さらに西の端・平戸島。筆者は佐世保港から定期船で向かい、つかの間の小旅行気分で伺うことができました。

零下で取り扱っている、福田酒造「福海」。ラベルには、福田酒造の目の前に見える志々伎(しじき)山と海が描かれています。そんな「福海」誕生の秘話をたっぷり伺ってきました。

海辺に置いた「福海」の瓶と、後ろにそびえる志々伎山

福海と、後ろに見えるのは志々伎山

うまさを追求する酒造りから、地域を表現する酒造りへの転換

取材を受けてくれたのは、社長の福田竜也さんです。

東京農業大学で醸造を学んでいた福田さんは、「長崎を代表する品質の高い酒造り」を目指して地元に帰ってきました。

「東京で暮らしていたころ、居酒屋で福岡・佐賀・大分・熊本のお酒は見たことがあったんですけど、長崎だけは一度もなかったんですよ。ちゃんとした品質のものを作れば、地域に関係なく九州のお酒を扱ってくれる人が増えるんじゃないかと思って。自分が美味しいと思える酒を造りたいなと」。

取材に応じる福田竜也社長

福田竜也社長。休日の時間を割いて取材に応じてくれました

全国数々の蔵を巡って酒造りのノウハウを学び、品質を追求して生まれたのが、「福海」の前身にあたるブランド「福田」でした。福田さんにとって自信作の酒でしたが、努力に見合うだけの売り上げは得られませんでした。他ブランドの人気酒ばかりが売れていく現実を目の当たりにし、「どうしたら売れるのか」「おいしい酒とは何なのか」と悩み続けるうちに、一時は酒造りへのモチベーションを失いかけてしまったそうです。

そんな時、転機となったのは花の香酒造(熊本県)の神田さんの言葉でした。

「『福ちゃんの酒はうまいんだけど、なんか違うんだよな。福ちゃんは酒造りの勉強よりも、地域とか蔵の歴史のことを深く勉強した方がよかよ』ってアドバイスをもらったんです」

歴史に詳しい親戚に平戸について教えてもらう中で、志々伎山の歴史の深さに圧倒されたそうです。

パソコンで地域の歴史を調べる福田社長

地域の歴史を紐解く作業は、目から鱗だったと話す

「勉強する中で、志々伎山の特徴的な形が、海上交通の目印となっていたことを知ったんです。ほかにも、山や海にまつわる歴史がこの辺りにたくさんあって、こんなにすごい財産の存在を知らずにいるのは、生きていく上でもったいないと思いました。だから、地域を表現できるお酒を造ろうと思ったんです。目指すべき方向が見えたら、酒造りに対してまたわくわくしてきました」。

古代、海上交通の目印だった志々伎山と、その足元で海外交易の拠点として栄えた志々伎湾。この地の歴史を紐解くことは、平戸の海の歴史を探ることでした。

「福海」のラベルにある、海と志々伎山のシルエット。かつて海を行く船の目印だったその景色は、道を見失いかけていた酒蔵が向かうべき新たな航路を示す「道しるべ」となったのです。

海の向こうに見える志々伎山

志々伎山(写真提供:福田酒造)

「海」を感じる酒へ。発泡感を残すための工夫

では、どうしたら平戸を表現した酒ができるのか。福田さんが注目したのは、飲んで海を感じられるような「発泡感」の追求でした。

いち早く取り入れたのが「ヒートリード機」です。火入れの際、瓶を打栓したのちに温めることで、発酵由来のガスを逃さずに酒を出荷することが可能になりました。また、低振動のポンプを使うことで、ガス感や香りを飛ばさずに優しく酒を瓶詰めできます。

瓶詰めした酒を温めるヒートリード機

海を表現する肝、ヒートリード機

一方で、麹づくりや蔵内での米の運搬などは、あえてすべて人の手で行っています。米をホースで送る便利な機械もありますが、配管内にほこりなどが溜まり、混入してしまうリスクがあるためです。

機械化と手作業をうまく分担しながら、酒造りを行っています。

徹底的に平戸にこだわる原料づくり

秋から始まる今年の酒造り。「地域を表現する」ための最も具体的なアクションが「米」です。

田んぼで育つ穂増の稲

穂増

今年から作り始めたのは「穂増(ほませ)」という品種。江戸時代、主に熊本で育てられ、江戸末期には大阪堂島米会所で「天下第一の米」と評されたほどの評判でした。福田さんによれば、穂増は当時、九州各地の交易ルートに乗って広まっており、肥後から大阪へ輸送されていた記録があることから、平戸でも栽培されていた可能性は高いといいます。しかし、平戸の米作りは決して容易ではありません。

「平戸島は東西約10キロ、南北約30キロの細長い島で、台風が来ると塩水が簡単に1キロほど飛んでいくんですよ。だから塩害を受けやすいところもあって。他の地域では等級検査で1〜2等米が平均的な数字になるところ、平戸では3等米が平均になってしまうんです。塩害の影響もあるかもしれませんが、それでも“地酒”や“海を表現する”というキーワードを掲げるなら、この地域の米を使うからこそこの味が出るということを証明できればいいなと思っています」。

体感!地元食材とのペアリング

最後に、平戸を表現した「福海」を試飲させていただきました。いただいたのは零下でも取り扱っている「福海 山田錦 火入」です。

こちらに合うとご用意いただいたのは、地元の名産・川内かまぼこ。かまぼこというと板付きのものを連想しがちですが、平戸のかまぼこは、藁すぼ(ストロー状の藁)にすり身を巻きつけて蒸し上げるのが特徴です。さらに、こちらは平戸特産のオレンジ「夏香(なつか)」の皮をすり身に練り込んでいます。

福海の瓶と、皿に盛った川内かまぼこ

福海と川内かまぼこのペアリング

「福海」は香りが穏やかな酒なので、あえて口の広い酒器で飲むのもおすすめだそうです。

かまぼこと福海を前に説明する福田社長

ペアリングについて社長自ら説明してくれた

それでは試食と試飲させていただきます。

福海とかまぼこのペアリングを味わう筆者

ペアリングを体験

素朴だけれど、しっかりと魚のうまみを感じられるかまぼこに、「福海」の海を表す発泡感がやさしく寄り添います。柑橘の皮も入っていることで、夏らしくさわやかな印象に仕上がっていました。

福田さん曰く「福海の適温は、冷蔵庫から出して少し経った5〜10℃くらい」とのこと。

「酒づくりは、心でつくり、風が育てる。」地域に根ざす福田酒造の覚悟

実は福田酒造では、地域に根ざした酒造りを目指し、5〜6年前から「生酛造り」に挑み始めています。当初は「海の乳酸菌」を添加して独自の酒を造る方法を模索していましたが、ある専門家の助言が転機となりました。

「『300年前から海の近くにある蔵なら、潮風が微生物を運んでいるはずだから、わざわざ研究する必要はない』と言われてハッとしました。創業者の『酒づくりは、心でつくり、風が育てる。』という言葉の意味が、ようやく腑に落ちたんです」

地元の水や米を使うだけで「地酒」と言えるのか。その自問自答の答えは、風の中にありました。効率の真逆にある「ここでしか作れない不便さ」こそが、真のブランドになると確信したのです。

「便利さを求めて別の場所へ行くのではなく、『この地域じゃなければ福田酒造の味は絶対に作れない』ということを、次の世代のためにも僕の代で証明したいですね」。

志々伎山を背に福海を持つ福田社長

福海の重大なコンセプトとなった志々伎山とともに

決してアクセスが良いとは言えない平戸島。けれど福田酒造は、その不便ささえも活かし、ここでしか生み出せない酒を造り続けていました。

「平戸を表現する酒を」と少年のように目を輝かせて語る福田社長の熱量。それが一滴一滴に注ぎ込まれたお酒は、温かくも芯のある力強い味がします。あえて「不便」を選び、故郷の味を未来へ繋ごうとする姿に、私自身も強く胸を打たれました。

グラスの向こうに広がる平戸の情景に思いを馳せながら、ぜひ皆様も至福の一杯を味わってみてください!

WRITER / この記事を書いた人

西永里花

ライター・アナウンサー/唎酒師

西永 里花

Rika Nishinaga

大学卒業後、ラジオ局やNHK鹿児島・長崎のキャスターとして活動。地域のお酒や食の特集を、企画立案から編集・出演まで一貫して担う。現在は「お酒に詳しすぎるアナウンサー」として、酒造メーカーのCMナレーションや講演、司会を行う。日々、食事に合うお酒のペアリングを模索中。九州の地酒や焼酎に精通し、唎酒師、焼酎唎酒師、ビール検定2級を保持。

この記事の監修者

日本酒王子の写真

日本酒王子

近藤悠一

Sake Prince, Yuichi Kondo

・王子認定協会認定 公式「日本酒王子」
・株式会社さくら酒店 代表取締役社長

国内500軒超の飲食店卸、通算200回以上のマリアージュ会(日本酒とお料理の相性を楽しむ会)の主催、オンラインショップ「零下 - REIKA - 」の運営などを通して、世界中の方に笑顔になっていただくお手伝いをしています。
また、これまで5000種類以上の日本酒を利き酒してきた実績を活かし、YouTubeチャンネルでは日本酒の魅力を発信。年間150件以上のペアリングを考案する日本酒のスペシャリスト。
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